量子化ノイズと SN 比の計算 | ビット深度と SN 比を一画面で
ビット深度・ディザ方式・信号レベルから、フルスケール SN 比、ノイズフロア、ダイナミックレンジ、信号 SN 比、量子化段数を一括算出。マスタリングや AD/DA 設計で「16 bit と 24 bit でどれだけ静寂が変わるか」を理論値で確認するための計算機。
💡 このツールについて
PCM 音声の SN 比は、よく知られた 6.02·n + 1.76 dB の式で決まる。ここで n はビット深度で、量子化誤差を一様分布の白色雑音とみなしたフルスケール正弦波に対する理論値である。CD の 16 bit なら約 98 dB、スタジオ標準の 24 bit なら約 146 dB という暗黙の基準値が、この式から導かれる。
ただし実務で迷うのはここから先。ディザを掛けると低レベル信号の非線形歪は消えるが、その代償としてノイズフロアが持ち上がる。RPDF(矩形分布ディザ)で約 3.01 dB、TPDF(三角分布ディザ)で約 4.77 dB の上昇である。さらに、実際に流れている信号が −20 dBFS なら、フルスケール基準の SN 比そのままではなく、その信号レベルからノイズフロアまでの差が「聴感上の SN 比」に近い。
このツールは、フルスケール SN 比・ノイズフロア(dBFS)・ダイナミックレンジ・任意レベルでの信号 SN 比・量子化段数(2 のべき乗)の 4 軸を同時に表示する。スライダーを動かすと数値が更新されるので、ビット深度を 1 段増やすと SN 比が約 6 dB 改善する関係や、TPDF を入れたときの目減りを並べて比較できる。
🧐 よくある質問
Q. なぜ式に +1.76 dB が付くのですか?
A. フルスケール「正弦波」の実効値はピークの 1/√2 で、量子化誤差を一様分布とみなした雑音電力との比を dB に直すと 1.5 倍ぶん、すなわち 10·log10(1.5) ≈ 1.76 dB の項が現れる。矩形波や雑音など別の信号を基準にすると、この定数は変わる。
Q. ディザなしと TPDF、どちらを基準に読むべきですか? A. 表とノイズフロアの「理論最大ダイナミックレンジ」を見るならディザなし。実際にマスターへ書き出す前提なら、量子化歪を白色雑音に置き換える TPDF を選び、約 4.77 dB 下がった値を現実値として読むのが安全。
Q. 信号 SN 比がフルスケール SN 比より小さくなるのはなぜですか? A. 信号 SN 比は、入力した信号レベル(例 −20 dBFS)からノイズフロアまでの差として計算している。フルスケールより低い信号は、その差ぶんだけ SN 比が縮む。録音時のヘッドルームの取り方を見積もる目安になる。
Q. 32 bit float のレコーディングにもこの値が当てはまりますか? A. この計算は 32 bit を含め整数(固定小数点)PCM の理論値。32 bit float は仮数部 24 bit + 指数部で実効的な扱いが異なるため、194 dB という整数 32 bit の数値は float のダイナミックレンジとは別物として読む必要がある。
Q. ビット深度を上げれば音質は必ず良くなりますか? A. SN 比とダイナミックレンジは確実に広がるが、可聴域では 16 bit でもノイズフロアが十分低い場面が多い。24 bit が効くのは録音・編集時のヘッドルーム確保と多段処理での誤差蓄積回避が主目的、と切り分けて考えるとよい。
📚 豆知識
ディザの数学的な正当化を与えたのが Lipshitz と Vanderkooy の研究で、TPDF(三角形確率密度関数)を使うと量子化誤差が入力信号と統計的に独立になり、誤差の平均と分散が信号によらず一定になる。これは「歪を雑音に変換する」処理の核心で、わずかなノイズフロア上昇と引き換えに、低レベル信号特有の不快な非線形歪(相関ノイズ)を完全に取り除ける。アナログ時代のテープヒスが、ある意味で天然のディザとして機能していたという見方もある。