全高調波歪み (THD) 計算ツール|THD-F / THD-R / SINAD / ENOB を一画面で
基本波 H1 と高調波 H2-H8 の振幅を入力するだけで、IEEE 系の THD-F と IEC 系の THD-R を %・ppm・dB の 3 単位で並列表示。ADC/DAC 評価に直結する SINAD と ENOB も同じ画面で算出。
💡 THD の「定義違い」でスペック比較がずれる問題
THD という 1 つの言葉に、実は分母の取り方が異なる 2 つの定義が同居している。高調波 RMS を基本波で割る THD-F (IEEE / ITU-T) と、高調波 RMS を全成分の RMS で割る THD-R (IEC 60268) は、歪みが小さいうちはほぼ一致するが、数 % を超えると無視できない差になる。データシートの THD がどちらの定義かを確認せずにアンプ同士を比べると、本来同等の特性でも片方が劣って見えてしまう。
このツールは FFT のピーク値さえ読めれば、両定義を同時に出して規格の取り違えを防ぐ。線形振幅 (V) のまま入れても、基本波を 0 dB とした dBc で入れても、内部で線形比に揃えて計算する。さらに SINAD = -THD-R(dB)、ENOB = (SINAD − 1.76) / 6.02 までまとめて出すので、FFT のスクリーンショットを見ながらメーカー spec の THD・SINAD・有効ビット数と突き合わせられる。
🧐 よくある質問
Q. THD-F と THD-R はどちらを使えばいい? A. 比較対象のデータシートに合わせる。オーディオアンプや ITU-T 系は THD-F、IEC 60268 準拠の機器測定は THD-R が多い。両方表示されるので、相手の定義に合わせた値を読めばよい。
Q. dBc モードの基本波はどう入れる? A. 基本波 H1 は常に 0 dB 基準として扱われる。各高調波は基本波に対する相対値 (例: −60 dBc) で入力する。負の値が大きいほど歪みが小さい。
Q. SINAD と ENOB の前提は? A. このツールには雑音 (ノイズフロア) の入力欄がないため、SINAD は雑音項を 0 とした近似値、つまり高調波だけから求めた SNDR に相当する。ENOB はフルスケール正弦の理想式 (SINAD − 1.76) / 6.02 で算出する。実機のノイズを含めた厳密値ではない点に注意。
Q. 高調波は H8 までしか入らない? A. 2 次から 8 次までの 7 本を扱う。オーディオや変換器の評価では低次高調波が支配的なため、H8 までで実用上の THD はほぼ捉えられる。
Q. 線形モードで負の値を入れたら? A. 振幅は大きさなので、負値は 0 にクランプされる。FFT のピークマグニチュードをそのまま入力すればよい。
📚 高調波の偶数次・奇数次が語る歪みの素性
歪みの「色」は高調波の並び方に表れる。真空管アンプが温かいと言われるのは 2 次 (偶数次) 高調波が多く、基本波とオクターブ関係にあるため耳に協和して聞こえるからとされる。一方トランジスタやデジタル回路のクリップは 3 次・5 次 (奇数次) を強く生み、硬さとして知覚されやすい。THD という 1 つの数値だけでは、この「どの次数が支配的か」という素性は読み取れない。だからこそ H2-H8 を分けて入力する意味がある。各高調波の振幅を眺めれば、同じ THD でも偶数次優勢か奇数次優勢かが一目で分かり、回路の歪み特性を推測する手がかりになる。